飾らないワタシの地味日記

道端に捨てられた詩を拾います。(20)

眠たい

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大学2年生は眠たい時間だった。立ち上がって歩き回っている時間よりも、微睡み、深い眠りに落ちていく時間の方がずっと長かった。起きていると自覚する時間はあまりにも短く、意識を放り投げて深く、とても深く眠った。夜はあまりにも甘美で、とろとろとした暗闇がわたしは好きだった。誰もが横たわり、ぐっすりと眠っているのだと思うととても安心して眠れないくらいに幸せだった。おかしな話だ。わたしは昼間にばかり眠り、夜になると世界中の人々の寝顔を見るためにむっくりと起き上がった。起きている間にどんなに悲しいことがわたしを襲っても、眠りはいつでも暖かだった。悲しいと思う前に眠り、寂しいと思う前に眠り、怒りが喉を震わせる前に眠った。恐ろしい感情から逃げるようにして、わたしはベッドに潜り込んだ。意識がないこと、なにもないこと、どうやらそれがわたしの幸福らしかった。苦味のきいたこっくりとした珈琲を飲むときよりも、いちごのショートケーキを小さく切り分けるときよりも、眠りに入る前のあの一瞬の方が幸せだと思った。食べることも歩くことも放り出して、ずっとずっと眠っていた。なにも得ないかわりになにも失わず、そうして私は新しい春を迎えた。