飾らないワタシの地味日記

道端に捨てられた詩を拾います。(20)

沈黙

借りものの言葉を語るな、と言われてしまって 震える口元として、振動として、 ついぞ黙ってしまう このひらがな、この文法、この音さえも、 わたしのものにはならなくて、 風に揺れて落ちゆく銀杏としてしか、 存在することができない どこにいくにもわたし…

だめだよ、きみは孤独でなくちゃ

あなたが両の腕に抱えた宝箱。銀色、月の光と同じだね。冷たい光だけがあなたと溶け合うことができて、まあるいテーブルの上にしゃがみ込んでは、揺れるカーテンを見つめていた。そんな時、ぼくはいつもどこか遠くにいて、描きかけの油絵の香りだけがぼくを…

書くしかないので書く

ぐるぐると目の前を漂うのは蜘蛛の糸である。あなたは暗闇の中でも、その銀色の糸をしっかりと見つけることができる。てらてらと輝くそれは、いったいどこからの光を反射しているのだろう。天の川のような銀糸。あなたには口を少しだけ開けて呼吸をする癖が…

つよくなる

もう誰にも負けねぇ、という気持ちがいつもある。それは別に、相手を打ち負かして悔しがる顔を見たいとか、恨みを晴らしてやりたいとか、そういうことではなくて、もっと憧憬の念がこもった心持ち。憧れと言う言葉はどこか静止しているように思える。憧れて…

ねむい

人を愛したり、愛さなかったりして、僕はいくつもの季節をゴミ箱に放り投げた。ゴミ箱からは、くしゃくしゃに丸められた桜の呻き声が聞こえる。海水の腐った臭いがする。萎びれた皮カバンのような色になった雪が、溶けることもできずに春を待っている。僕は…

冷えていく

文字に対する圧倒的な信頼が世界に膜をかぶせているように思う。「文字」「圧倒的」「信頼」「世界」という単語を目にして、それぞれに抱くイメージを疑わぬままに受け入れてしまう。海に「うみ」という名前をつけて、愛おしい立ち振舞いを「かわいい」と形…

「美しい水死人」ガルシア=マルケス

風がうねりをあげているあいだは、男を追いかけてきた過去が遠くから運ばれてきて、女たちの与えた名前や彼に関する妄想に蝕まれないでいられる。しかし、風がやんでしまえば、男は過去から断絶され「エステバン」としてそこに横たわるしかない。「エステバ…

文字への過信 殺人事件

文字に対する圧倒的な信頼が、わたしを文学から遠ざけている気がする。 「文字に対する圧倒的な信頼が、わたしを文学から遠ざけている気がする。」 と書けば、それだけで全てが伝わると感違ってしまっている。伝えたいことだけを殴り書いても、伝えたいこと…

友人へ

あなたがハタチを迎えて、わたしは、誰よりも熱烈に優しくおめでとうと言いたい。本当はあなたの目の前で、小さな花束を渡しながら「誕生日おめでとう」と言ってあげたかった(スターチスなんかはぴったりだね、花言葉もとても素敵だから)。けれどもわたし…

「人間は素質だけで何かやれるわけじゃないから」

「人間は素質だけで何かやれるわけじゃないから」 いつか私にぴったり合う魂の片割れみたいな人が現れて、補うようにして友達になったり、恋人になったりするんだと思っていた。いや、今でも少しはそう祈っている。 でも私たちは、相性がいいという事実だけ…

眠たい

大学2年生は眠たい時間だった。立ち上がって歩き回っている時間よりも、微睡み、深い眠りに落ちていく時間の方がずっと長かった。起きていると自覚する時間はあまりにも短く、意識を放り投げて深く、とても深く眠った。夜はあまりにも甘美で、とろとろとした…

時代遅れとて

逃げ恥が好きだという話 わたし自身がすごくいいドラマだと思って見終わったから、SNSで批判している人の意見を、なんだか心が狭くて嫌だなあ、と避けてしまっていた。でも、「みくり平匡の子供が生まれて泣いてる沼田さんに「僕らには僕らの幸せがあります…

わかりやすく、と

言葉の情報を伝えるための道具としての機能ばかりが強調されすぎていると感じる。日々、誰かに何かを伝えるために言葉は紡がれているし、意味の見出しづらい言葉の並びに 対する人々の視線は冷たい。プレゼンでもレポートでも、Twitter でも、インスタのキャ…

ゼミの志望理由書

「かわいい」「かっこいい」「おとなっぽい」という形容詞では象ることのできない細かい凹凸が人間にはあって、そうした小さな違和感を拾い上げてくれるのが文学だし、詩作であればいいのにと思う。資本主義社会で、みんながみんな、上を向け、立ち止まるな…

幸せになりたいよな

こんな風に愛したいとか、こんな詩が書きたいとか、こんな風に死にたいとか、そういう抽象画みたいな言語しか話せなくなる時がある。暗いよりは温かく、浅いよりは深く、醜いよりは美しく、みたいに。でも例え、完璧な抽象画が完成したとして、そのモチーフ…

アイデンティティの再構築と置き去りの魂

私しか、私が存在していることを知らない街で暮らした。雑踏の中、地下鉄のホーム、人のいないお寺の境内で、私は私の存在を認めてあげなくてはいけなかった。そうでなければ、この体は、この声は、この魂は、すぐにぽろぽろと崩れ落ちてしまっただろう。気…

勘違って名前をつけてしまったから

本来、物事はグラデーション 、なのにぼくたちは、勘違って、君を、ぼくを、名前で呼んでしまった。だから僕たちは、いつまでもいつまでも、不安で、不安で、仕方がないんだ。 もともと、僕たちは物事をはっきり区切ることなんでできないんだ。虹を見つけた…

「はい」は一回ね

言葉にしなくちゃ伝わらない、と誰もが言って、わたしが、「わかった。わかった。」と2回繰り返すたび、わかってないじゃないの、と叱られる。わたしが考えているということ、ずっとずっと考え続けているということをあなたは知らないのだろうね。そして、あ…

知識が私のコーヒーを美味しくする

わたしの好奇心は愛ゆえだということ。 知らないでいいことなんて何もないのだ。 背景や価値観、考え方を聞いてその人のことをもっと好きになるみたいに、知識はコーヒーを美味しくする。歴史を知って初めて、ヨーロッパの街並みの美しさや、由布岳の雄大さ…

わたしは人間だから深夜にアップルパイを焼く

わたしはもう立派に大人な19歳だから夜中にアップルパイを焼いちゃったりする。わたしのためだけの20gのバター、グラニュー糖、シナモン。一玉298円のりんご。嗅覚も味覚も、もうとっくの昔に死んでしまってるんだから、なにも感じ取られやしない。でも、別…

「イースターエッグ」的アイデンティティ

photo by わくらば 夏目漱石の説く、上滑りの近代化によるアイデンティティの喪失。これは明治維新で西洋化を余儀なくされた当時の人々だけではなく、現代人も抱えている課題である。 現代を生きる人々が懸命に磨きをかけ、きれいに塗装しているのは内的な核…

名前の知らない街を歩く、鏡のない部屋みたいだ。

プラハにて photo by わくらば 名前の知らない街を歩く、鏡のない部屋みたいだ。他者を通じてしか自身を認識できないらしいきみはきっと、すぐにとろけてしまうね。私を象らないでほしい。繊細な私は、重力にさえ己をゆがめられてしまう。粘土みたいにぐちゅ…

自殺を否定できない。

プラハにて photo by わくらば 「自殺を否定できない。」 そうわたしが真剣な顔で言ったら、友人に怒られたことがある。 もしわたしの友達が真剣に自殺したいと言ったなら、わたしは協力してしまうだろう、と言ったら、すごくすごく怒られた。彼女は半分泣い…

「いつかお前は爆発するよ。」

ベルリンの夜道 photo by わくらば 「いつかお前は爆発するよ。」そう言ったのは私の父。去年の夏のこと。 そりゃそうだ、と思った。納得した。頷いた。粉々に散らばる己の肉片すら容易く想像できた。 私、やっぱり、5割で人生をやりくりしているのだと思う…

平凡で平穏な不変的な日常

だらだらしてごろごろしてすごした。換気は大事らしいから、朝起きたら家中の窓を開けるようにしている。湿気が高いのか、しめった風が吹いて心地よいと感じた。朝ごはんは昨日作ったポトフとお好み焼きのような何か(馬場ちゃんのYouTubeを見て作った)。一…

小説を読むと心が豊かになるのか

ありふれたハッピーエンドもバッドエンドもわかりやすく終わる物語はすぐに忘れ去られてしまうね。笑顔で終わる最後の一節も、虚空を待つだけの一節も、どちらも結局はおしまいになってしまうことだ。全てはそこで終わり、もう二度と始まらない。彼らも彼女…