飾らないワタシの地味日記

道端に捨てられた詩を拾います。(20)

「人間は素質だけで何かやれるわけじゃないから」

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「人間は素質だけで何かやれるわけじゃないから」

 いつか私にぴったり合う魂の片割れみたいな人が現れて、補うようにして友達になったり、恋人になったりするんだと思っていた。いや、今でも少しはそう祈っている。

でも私たちは、相性がいいという事実だけでは友人をやれないし、恋人もやれない。阿吽の呼吸が成立しても、相手の思うことが手にとるように理解できても、それだけでは足りないのだ。備わった素質だけでは強固な信頼を結ぶことはできない。それだけでは踏み込むことのできない暖かな森林を、私たちは心の奥に宿している。単純な同衾や中身のない対話やらのもっとずっと奥にそれはある。そして、人を愛するとは、愛されるとは、その森林に立ち入る勇気があるかどうかだと思うのだ。キャッチボールの軌跡のように、互いの森林を一筆書きで繋ぎ止めてゆく、縫い合わせてゆく、そういう感覚が愛だろう。愛情の吐露によってこそやっと、互いの好意は掛け合わされて愛情になる。

 

 この世界にどんなに相性がいい人がいたとしても、それだけでは不十分。私とあなたが横に並ぶだけでは不十分なのだ。私たちは互いに興味を持たなくてはいけない。昨日食べたシチューの話とか、朝日が登ることとか、読みたい本とか、そういうのを淑やかに積み上げて、繋げ合わせて、友人になる。ひるがえって言えば、相性はただ出発点のハードルを下げるだけなのだから、そんなに重要ではないのかもしれない。 

 

なんにせよ、私にはやはり年月が必要なのだと思う、人を大切に思うには。だから今日も好きな人に好きだと言って、愛してると言って、そうやって生きていく。